株をチェックするにはコレ
「流行」だなんて、びっくりしましたか? 連続で3回お届けする「M&Aシリーズ」第1回Hの今回は、人々がこんなにもM&Aに熱中する理由について、つまり「良い理由」と「本当の理由」についてお話ししていきましょう。
まず最初に、いくつか基本的なことについてお話しします。
M&Aの「A」、これは、 「買収(acquisitions)」の頭文字です。
買い手(acquirer)が対象とする企業の全てまたは一部の株式を取得する、もしくは全てまたは一部の資産を取得する、といった取引がこれに当たります。
この手の取引のメカニズム及び戦略については、次節でくわしく説明します。
一方、 M&Aの「M」は、 「合併(merger)」の頭文字です。
ひとつ、もしくは複数の企業が、ある企業に取り込まれることで、取り込まれる前にもっていた資産や負債が存続する企業に移る、といった取引がこれです。
繰り返しになりますが、この取引の詳細も、次回説明します。
今回の段階では「合併は一般的に、買収取引のひとつのステップとして行われる」ということを、記憶しておいてください。
存続企業は、一般的には「買い手」企業か、もしくは買い手企業を保有する企業です。
この他にも、いくつか覚えておくと役立つ分類があります。
例えば、 「パブリック(公開企業)」 M&A取引では対象企業が上場企業、一方「プライベート(罪公開企業)」 M&A取引では対象企業の株式は上場されていません。
公開企業を対象とするM&Aは新聞などに取り上げられたりしてたいへん目立ちますが、実際の取引数では、非公開企業を対象とする取引のほうが圧倒的に多いのが実情です。
メディアが最も大きく取り上げるのが「敵対的(hostile)」 M&Aでしょう。
つまり、対象企業の取締役会が拒否を表明しているのに、買い手が強引に買収を仕掛ける場合です。
たいていは、公開企業を対象に行われます。
実際の取引数はとても少ないのに、この取引が人々の脳裏に焼きつきやすい理由は、 『ウォール街』のようなヒット映画の存在や、取引上の戦略が「シヤーク・リペレント(サメよけ)」 「ベア・バッグ(羽交い絞め)」 「ポイズン・ピル(毒薬)」そして「ホワイト・ナイト(白馬の騎士)」などといったカラフルな名前で呼ばれているからでしょう。
敵対的買収の反対は、 「友好的」または「交渉による」買収と呼ばれ、対象企業は、公開企業・非公開企業どちらの場合もあり得ます。
M&A取引には、波のような盛衰がありました。
米国における初期のM&Aブームは、 1890年代と1910年代-1920年代でした。
この時期の一般的な取引目標は、J・D・ロックフェラーのスタンダード・オイル社が仕掛けたような、巨大寡占企業を構成することでした。
この時代は、米国に強力な独占禁止法が施行される遥か以前でした。
三つ目の波が訪れたのは、 1950年代-1970年代で、当時の一般的なゴールは多角化でした。
この波によって生まれたのが、通信事業、ホテル事業、ベーカリーから航空業までを含むITTのような巨大コングロマリットです。
数々の波の中で最も有名なのが、 1981年から1989年まで続いたもので、この波はヨーロッパにまで及びました。
この時期頻繁に見られたのが、 「ジャンク・ボンド(投機的債券)」と呼ばれるリスクの高い負債を利用した「レバレッジ」とよばれる新しい手法によって資金調達された取引で、そのためこの手の取引は「LBO (レバレッジド・バイアウ=」として知られるようになりました。
これらの取引のゴールの多くが、コングロマリットの解体でした。
買い取った企業を細切れにして売りさばくことで、買い手たちは自分たちが支払った(または借りた)資金を凌ぐ額を回収しようとしたのです。
この波の特徴は、敵対的買収の数の多さでした。
当時「乗っ取り屋(CorporateRaiders)」は言うなれば「セレブ」で、後日少なからぬ人数が証券詐欺の容疑で投獄されるまで、人々にさんざん持てはやされました。
「ジャンクボンドの帝王」と呼ばれたM・ミルケンも、その中の一人です。
彼が詐欺罪で投獄されたとき、人々は、彼の髪の毛さえもニセモノだったことを知りました。
次のM&Aの波は1993年から2001年までの間、以前のものより遥かに大きく、しかし静かに、米国とヨーロッパを席巻しました。
この期間に発生したM&A件数は、米国で約11万9,000件、欧州で11万7,000件でした。
1980年代に起こったM&Aの取引件数が、米国で約3万4,000件、欧州で1万3,000件でしたから、この波がいかに巨大なものだったかおわかりでしょう。
この時期の取引は一般的に、同一産業内の企業同士の勢力拡大、もしくは構造改革を狙ったものでした。
その多くが友好的かつプライベート(非公開企業)で、かつ国境を越えたものが多数ありました。
現在西欧諸国は、 2003年に発生したこれに似た波を経験していると考えられています。
ただし、今回が出版される2007年秋時点では、米国で発生したサブ・プライム問題で信用収縮が発生していますので、沈静傾向にあります。
この間題によって長期的なM&A市場が縮小するか否かを論ずるには、時期尚早といえるでしょう。
現在のところ、この間題で最も大きな影響を受けているのは、後でお話しする、取引にあたって大量の資金を借り入れる必要がある「バイアウト・ファンド」などのプライベートエクイティのようです。
これらの波に共通する要素とは、一体何でしょう?それは、全ての波が、景気回復期に起きている、ということです。
それぞれの波の背景には、信用取引の急速な回復と、株式市場の活性化がありました。
規制媛和(米国においては、 1980年代の金融サービス規制媛和と、 1990年代のテレコム関連規制緩和)や、独占禁止法の緩和(1980年代レーガン政権によるものなど)も、その勢いを後押ししました。
これらの要素に加え、数多くの研究者たちが、これらの波を押し上げたものとして、当事者の「自信過剰」や「盲目的追随」を指摘しています。
何ら合理的な裏打ちもないまま、買収さえすれば自社の収益を改善できるという、非合理的で過剰な自信。
経営者の無知とエゴによる、流行に対する盲目的な追随。
私自身、1980年代にはM&A関連の弁護業務に携わっていましたが、この手の案件を数多く目にしました。
M&A取引の歴史を眺めれば、それぞれ独特の動機を持つことがわかります。
しかし、歴史を通じて、買い手の動機は通常、 「戦略的」か「財務的」かに分類されます。
例えば「戦略的」な買い手は、自社の技術面、マーケット面、その他の弱点を補強できるような対象企業を探します。
対象企業が待つ要素を加えることで、自社をより強くするというのが目的です。
一方で「財務的」な買い手は、対象企業を投資対象として取り扱います。
多くの場合、買い取られた企業は切り刻まれて(ブレーク・アップ:break-up)売りに出されますので、理論的には、対象企業は総合的にはその価値を落とすことになります。
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